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井筒

物語

井筒

しんしんと更けて行く秋の夜。ここは大和の国・在原寺。その昔、在原業平・紀有常の娘夫婦が住んだと伝えられる所です。荒れ果てた庭には、井戸と一叢の。この寺に立ち寄った旅の僧は、古塚に手を合わせて参る、由ありげな若い女に出会います。女は旅の僧に乞われるまま、業平夫婦の物語を詳しく語ります。 「幼き日、井筒に水鏡して背比べした二人は、

 

筒井筒 井筒にかけしまろがたけ 生にけらしな いも見ざるまに

 

比べこし ふりわけ髪もかたすぎぬ 君なにずして たれかあぐべき

 

と、歌を詠み交わし、夫婦となります。
時が過ぎて、業平の心が移った時も

 

風吹けば 沖つ白波たつたやま 夜半にや君が 一人越ゆらん

 

と、詠んだ夫を思う深い気持ちに、業平は心打たれ、妻のもとに帰ったのでした」
そう語ると女は、「私こそその有常の娘」と明かして、井筒の陰に姿を消します。

 

僧の夢の中に現れた有常の娘は、業平の形見の衣と冠を身に着けた男装の姿。昔を懐かしみつつ、静かに舞います。思い出の井戸に我が姿を映した女は、業平をしみじみと偲びます。やがて鐘の音が夜明けを告げる頃、僧の夢も覚め、女も消えて行くのでした。

 

舞台展開

井筒

後見が舞台正面先に、薄の付いた井筒を据えると、〈名ノリ笛〉でワキ(旅僧)が登場します。初瀬へ向かう道すがら在原寺に立ち寄った由を述べて、ワキ座に着きます。

 

〈次第〉の囃子で、シテ(里女)が現れます。「若女」又は「小面」、紅入(赤の入った)唐織は、若い女性の姿です。右手には数珠、左手に木の葉を持ち、物淋しい秋の夜、訪れる人もない古寺に参る情景を謡います。古塚に木の葉を手向け、静かに合掌します。

 

井筒

女は、旅僧に、業平・紀有常の娘夫婦の物語を詳しく語り聞かせます。〈クリ・サシ・クセ〉

 

やがて女は、自分こそ紀有常の娘と明かして井筒の陰に姿を消します。(中入)

 

間狂言(里人)の語りの後、〈一声〉の囃子で、後シテ(紀有常の娘)が現れます。「追懸」を付けた初冠と長絹は業平の形見で、男装の姿です。静かに序之舞を舞い上げると、思い出の井筒に姿を映し、業平を偲ぶくだりは、何と言っても一曲のクライマックスです。

 

鑑賞

井筒

『伊勢物語』〈二十三段〉をもとに作られたこの能は、一見有り得ない程の純愛を、美しく描き出しているように思えます。遠く時を隔てて、想い出の場所に現れる井筒の女。業平の形見を身にまとい、業平と一体化し、更に水鏡して業平を偲ぶ姿。

 

舞台上で繰り広げられる静かな追慕の姿の内側には、熱気に満ちた激しいまでの愛情があるのです。

 

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