ようこそ能の世界へ

能楽とは?

能の楽しみ方

演目のご紹介

 

演目のご紹介|ようこそ能の世界へ

鉄輪

物語

鉄輪

明恵上人は仏跡を訪ねるため、唐から天竺へ渡ることを志し、春日の明神へ暇乞いに南都を訪れます。

 

自分を捨て、新しい妻を娶った夫を恨み、その苦しさのあまり、貴船詣でをする女(シテ)がいました。賀茂糺の杜、草深い市原野を通り、遥々貴船の社に向かいます。心静かに詣でるうちに、社人(間狂言)が現れ、不思議な夢の告げを伝えます。「赤い衣を身にまとい、顔に丹を塗り、頭には五徳(鉄輪)に火を灯して戴き、怒る心を持つならば忽ち鬼となる」と。すると見る間に女の形相が恐ろしく変わり、走り去ります。(中入)

 

下京辺住む男(夫・ワキツレ)が安倍晴明(ワキ)を訪ね、近頃見夢見が悪いことを話すと、占うまでもなく、女の深い恨みのため、今夜にも命を落とすであろうと言われます。

 

晴明が祈るうちに、雷鳴が轟き、夢の告げのまま鬼となた女が現れます。夫への募る思いの苦しさ、激しい恨み。夫の命を取ろうとした正にその時、三十番神が現れ、女は心を残しながらも「まずこの度は帰ろう」と言い残して姿を消します。

 

舞台展開

鉄輪

貴船の宮に仕える社人(間狂言)が登場し、都より丑の刻参りをする女に、不思議な霊夢を告げようと言って、狂言座に退くと、〈次第〉の囃子で、女(前シテ)が登場します。深々と女笠を被り、唐織をたくした姿(壺折)は、旅装束を表しています。面は「泥眼」。眼に金泥を施した、思い詰めたような表情の面です。心変わりした夫の不実に苦しみ、貴船の宮に詣でると言います。都から貴船の宮までの道行の後、笠を取って床几に掛けると、そこは貴船の宮。社人は女に、願いのまま、生きながら鬼になることを告げます。女の瞬時の心と、形相の変化を激しい謡と型で表しています。笠を投げ捨て、「憂き人に思い知らせん」と、幕に走り込みます。

 

鉄輪

男(夫・ワキツレ)が登場し、夢見が悪いので、晴明のもとを訪れる由を言い、橋掛りに行き、案内を乞うと、晴明(ワキ)が登場します。場面は京一条の晴明の屋敷という設定です。

 

後見が三重棚と一畳台を舞台正先に据えます。棚には、侍烏帽子と髪が上段に置かれています。これは夫と後妻を表す依代。ワキが台に上がって祈ると〈出端〉の囃子で、女の生霊(後シテ)が現れます。夢の告げの通り、鉄輪を戴き、面は「橋姫」。眉間を寄せ、毛描きは乱れ、生きながら鬼となった女の恐ろしさ、悲しさを表しています。打ち杖を手に、棚に近づき、綿々と恨みを述べ、後妻の髪を手に巻いて打ち据え、ついには夫の命をも取ろうとしますが、三十番神の力で神通力も失せ、「まずこの度は帰るべし」と言って消え去ります。

 

鑑賞

鉄輪

洛中(五條と伝えられる)の住居から、遥か貴船まで女は鬱々とした気持ちを抱えて、暗く淋しい道を辿って行きます。「住むかいもなき同じ世の 中に報いを見せ給え」(どうぞ夫に天罰が下りますようにと)しかし、伝えられたお告げは、彼女自身が鬼となるという事でした。我が手で思いを晴らす。女はその告げの通りの姿になります。曲名となった「鉄輪」(五徳)に灯された火は、女の嫉妬の炎。丑の刻の暗闇を照らす明かりではなく、心の闇を一層深める炎だったのです。

 

前のページへ戻る

前のページに戻るpagetop